NetflixのSFもので、久々に見応えのある作品に出会えました。基本的に一人芝居というか、回想を除くと、主人公一人だけしか出ないという、限定空間サスペンススリラ→SF?、そんな感じです。
狭い極低温ポッドの中で、残り酸素濃度35%から記憶喪失で目覚め、体はセンサーやベルトで固定、身動きできず、自分自身の記憶を辿っていく、ワンシチュエーションサスペンスSFです。唯一の話し相手で、情報が得られるのはAIの声のみ。どの様なエンディングが待ち受けているか。
公開は、2021年5月なので、約1年前ですが、非常に良くできています。
絶対見るべき、オススメです。
作品情報
【配信公開日】2021年5月12日
【製作国】アメリカ・フランス共同製作
【上映時間】101分
【監督】アレクサンドル・アジャ
【キャスト】リズ:メラニー・ロラン
ミロ:マチュー・アマルリック
レオ:マリック・ジディ 他
あらすじ(ネタバレなし)
◆主人公は、突然、赤い警告ランプと共に目覚めるところから、物語は始まる。
◆体は、頭までオーガニックコットンに包まれていて、何とか自分で破って、
周りを見渡すことができたが、自分の置かれている状況が理解できない。
◆医療用ポッドの中にいることは、理解できたが、自分が誰で、なぜここにいるのかわからない。
パニックになりながら、周りを探すも、拘束されており、身動きが取れない。
◆AIのミロ(医療管理指導AI:Medical Interface Liaison Officer)と会話。
システム障害により、ポッド内の残存酸素35%という危機的状況が伝えられる。
◆ミロを介して、通信ができることを知る。
警察に電話をし、助けを求めるも、最初は取り合ってくれなかったが、やっと状況を理解し、
調査を開始。窒息まで41分しかないのに、捜査に時間がかかり、不満爆発。パニック。
◆ミロに自分自身のDNAを検索させる。
自分が、エリザベット・ハンセン博士(リズ)という名前で、生物工学者であることを知る。
◆記憶が少しずつ、戻り始める。
愛する夫レオがいたことを思い出す。
◆警察の調査で、
リズは独身で、結婚歴はなく、レオという人物は存在しないと知らされる。
自分の記憶が間違っているのか、妄想なのか、パニックになりながら、現状を解明していく。
パニックスリラー的な場面から始まり、自分がなぜ、そこにいるのかを記憶を遡り、解明していく
映画となっています。
ぜひ、ネタバレなしで一度、鑑賞されることを強くお勧めします。
演技も真に迫っており、ドキドキでき、謎は、伏線回収してくれる作品です。
感想(ネタバレあり)
何気に、見たのがよかったのか、事前知識なしに見たので、インパクトありました!。
何となく、SFものと思っていましたが、前半部分は、あれ?ちょっと違うのかなと感じてました。
ポッドの中で、四苦八苦しているリズの演技は、真に迫ってます。
そんなにパニックになったら酸素が減るじゃないか!とハラハラして、次から次に謎が出てきて、
視聴者を飽きさせない流れを持っています。
ただ、正直、どこまでこのポッド場面が続くのだろう?と思ってました。
いつ、次の場面に移るのかと思ってましたが、半分ぐらいになった頃、ひょっとして、このまま
最後までポッドの中だけで進むのかな?と考えるようになりました。
とすると、エンディングはどうなるのか?が、一番の関心でした。
それでも、うまいことレオとの思い出の場面に切り替えたりして、単調にはならないような構成
となっています。
ミロとの会話を通して、DNA鑑定し、自分の名前を探し出したり、自分の情報から手がかりを
得たり、細かい演出がされています。
警察の捜査状況に疑問を持ち、自分の記憶が正しいのか、妄想なのか、混乱したり、ポッドという
限定空間の場面で、視聴者を飽きさせない演技もなされていると思います。
事実、引き込まれていく感じでした。
レオの、数少ない連絡先にあった女性に、何度かけても、電話を切られる。
当初、レオの母親なのかと思っていました。
その女性が電話をかけ直してきて、リズを助けられるのは自分しかいないと言う。
半信半疑で、自暴自棄になりかけていたが、管理者権限のパスワードを教えてもらえたことで、
女性のことを信じてみることにする。
彼女曰く、そこは、宇宙空間で、地球を離れて14年間かけて、惑星ウォルフ1061cに移住のため
航行しているとのこと。
そのため、決してポッドを開いてはいけないのだと。
また、愛する夫レオは、地球で10万人が羅漢した病気にかかり、亡くなったと知らされる。
彼女から、極低温睡眠モードを再度設定する方法を教えようとするが、破損システムのリソース
代替え処理がうまくいかず、しかも、彼女は、電話口で何者かに拉致され、電話が切れてしまう。
電話が切れる前に、彼女は、”レオを見つけて”と謎の言葉を言い残す。
先ほど、レオは病気で亡くなったと聞いたばかりなのに、なぜ、そんなことを言ったのか不思議に
思った。
リズは、ミロに、この宇宙船にポッドは何個あるのか、尋ねる。
ミロは、10,000個のポッドがあるが、400個が小惑星の衝突により破壊され、故障ポッドの
生存者はリズだけだと告げる。
ポッドの画像を見れないのか、ミロに問うと、画像は表示していると言う。
ただし、紫外線防止の遮光フィルターがかかっているとのこと。
遮光フィルター解除すると、そこには、何千ものポッドを格納した壮大な宇宙船の姿が見えた。
そして、その一部が、破壊されている光景と、破壊された人間が宇宙空間を彷徨っている光景が
飛び込んできた。
ここで、やっと、ポッド以外の壮大な映像が映し出されています。
ポッドの後ろには、地球が見えています。
ポッド内の世界から、広大な宇宙空間を進む何万ものポッドを抱いた宇宙船は、いきなり
圧倒される場面です。
ポッドという、狭小空間から、宇宙空間という壮大な空間の対比を演出していると
考えられます。
いきなり、破損した遺体がアップとなるなど、ホラー要素も十分にあります。
そして、リズは、彼女の言葉が気になり、レオも別のポッドでこの宇宙船に乗っているのでは
ないかと考え、やっとのことで、レオを見つける。
しかし、記憶にあるレオには、額に傷があったが、ポッドで睡眠中のレオには、額に傷がない。
再度、リズは、自分自身を調べ直し、アーカイブの記憶転送の受賞講演で、年老いた自分が
プレゼンテーションをしていることに気づく。
ミロに自分の年齢を尋ねると、12歳と言われ、理解ができない状況。
ついに、自分がクローンであることに気づく。
そして、先ほど電話をかけてきた女性こそが、オリジナルの自分自身リズだったと知る。
クローンという設定は、正直驚いた。
そういうことなのか!!全く、考えなかったストーリー!!
自分がクローンであることにショックを受け、自暴自棄になるが、酸素30%切ったところで、
ミロは、生存の可能性がないと判断し、安楽死の薬を打とうとする。
すでに、注射ロボットアームは、壊していたが、ミロは、静脈注射で打とうとする。
既のところで、足の指の間に刺さっていた、チューブを引き抜いて、安楽死は免れた。
そして、所々で出てくるモルモット実験の場面が、ここで伏線回収されてくる。
記憶移植のために、何百、何千匹のネズミを使って実験したため、モルモットの幻影に悩ま
されたということだと思う。
しかも、最初は、1匹だけであったが、最後は、何10匹も幻想が見えてしまう。
(後でトラウマになるレベル)
残存酸素2%を切って、クローンとしてポッドの中で死ぬために生まれてきたのだと、自暴自棄に
なっていたが、最後の最後、残存酸素1%を切って、ミロから極低温睡眠中に他のポッドの酸素を
転送すれば、蘇生時に酸素がある状態にできるという可能性に気がつき、生きる望みができた。
極低温睡眠モードに移行するため、他のポッドから酸素を分けてもらい、蘇生時に2%以上になる
ように、ミロに頼んで、極低温睡眠モードに移行した。
そして、レオと目的地の惑星で再開し、昔のように二人で仲良く暮らしたとさ。
よくできた、ストーリーと構成だと感心した。
演出も、基本的に主演女優だけで、泣いたり、喚いたり、冷静に考えたり、ポッドの狭い中で
アクションしたり、伏線も回収し、起承転結がしっかりできた、本当に、飽きさせない良作でした。
上手い演技が、緊迫感にあふれ、素晴らしいと思います。
ワンシチュエーションのスリラーは、難しいと思いますが、スリラーでありSFとしても非常に良く
できた作品となっています。
個人的な評価 ★★★★
ワンシチュエーションSFホラーで、構成、演出、演技どれをとっても、非常に良い作品だと思う。
しかも、難しいポッド内の演出は、視聴者を飽きさせない謎を散りばめ、伏線回収もできている。
近代稀に見る、秀逸な作品だと思います。
ただ、狭いポッド内での演出内容を理解するのは、難しいのかも?と思います。
単純には理解できない部分もあるため、人を選ぶ作品かもしれません。
アーカイブの講演会時映像では、リズは、60歳〜70歳ぐらいだったので、リズの母親アリスが
生きていて、電話で元気に喋っていましたが、90〜100歳ぐらいにはなるはずなので、
設定が気になりました。
ちょっと無理があったのではと思います。母親への電話は、必要だったのか?
また、ミクロから、マクロにシーン展開し、宇宙空間における壮大な宇宙船を描いていて、
非常にかっこいいのですが、難点があります。
小惑星が衝突して、ポッドが破壊され、今回の緊急事態になった原因ですが、何と、宇宙船の
ポッドは、剥き出し!!。
そりゃあ、何かぶつかったら、即破壊されるわけですね。
記憶の移植や、クローン生成、超光速航法など、素晴らしい技術を開発したのに、この宇宙船の
デザイン、大切なポッドを守る構造になっていないのは、何か変だと思います。
もっとも、そうしないと、ストーリーの起点ができないのですから、仕方ないです。
それと、オリジナルのリズからとの会話が、要領を得ないのは?核心の回答を、言わないで持って
回った言い方しかしない。挙句に、”レオを見つけて”と謎かけをしてくる。
ひょっとして、リズの記憶障害を甘く見ていて、自分と同じ知識があれば、切り抜けられると
思っていたのでないか、とも思います。何より、リズ自身が開発したポッドなのですから。
あくまで想像ですが、この辺りも、視聴者にはもどかしいところだと思います。
当初、リズの年齢は、12歳とミロが言っていたので、航行して12年と思っていました。
現在位置は、地球から、6万8000Kmの距離と言っていたので、12年かかって、それは、遅すぎ
ではないかと思っていました。
宇宙航行できるということは、超高速航法もできる技術も積んでいるはずだと思うので、
それで、まだ、地球から6万8000Kmはないだろうと思ってました。
でも、よく考えると、リズがクローンとして生まれてからが、12年なのでは?
とすると、地球を出発してすぐ小惑星の直撃を受け、極低温睡眠が解除されたという設定?
と思いだしました。
ひょっとすると、地球を出発してから、まだ数日しか経っていないのかもしれません。
ここら辺も、あまり説明はなく、流れではわかりにくい設定です。
設定上、地球へ通信できる必要があり、あまり遠くまで行ったら、通信できなくなりますからね。
細かいことは置いておいても、低予算でここまでの作品に仕上がっているのは、非常に素晴らしい
作品だと感じます。
上映時間もハラハラ、ドキドキしているうちに、あっという間にエンディングとなります。
ただ、見終わったと、かなり尾を引く映画です。
でも、多分
そして、あのエンディングは何だったか?が、一番のスリラーです。
途中に出てくる、薬の色がキーワードだと考えます。
リズが、パニックになった時、ミロは、何度も鎮静剤を打ちますか?と、聞いてきた。
リズが、ポッドの隙間をこじ開けるための道具として、注射器を入手することを思いつき、鎮静剤の注射器をロボットアームからもぎ取った時の、鎮静剤は、赤色でした。
また、酸素が30%を切ったときに、ミロは、リズの生存確率が0%となったと判断し、安楽死薬を静脈注射で投薬し、リズは、危機一髪で、足の指の間に刺さっていたチューブを引き抜いた時、流れ出した安楽死の薬は、青色でした。
鎮静剤 :赤色
安楽死薬:青色
そして、酸素1%を切って、未来に向けて、新惑星でレオと暮らすことを夢見て、極低温睡眠に入ろうとした時、ミロに、”鎮静剤を投入しますか”と聞かれ、リズは、”お願い”と答え、薬が静脈注射でチューブをつたって投入され始める。
一瞬、映ったチューブに流れる薬の色は、青色、つまり安楽死の薬だったと思われます。
青い鎮静剤だった可能性もありますが、ここまで、演出にこだわってきたのに、色を適当にするとは
思われません。
リズは、消去されたのだと思います。
レオのクローンが、無事に新惑星に着いた時、残されたのは、今は亡きリズの最後の録音のみ。
それさえも、ミロは、レオに伝えるか不明です。
きっと、機密事項として、伝えられることはないと思います。
エンディングで、二人仲良く、昔のように新惑星で過ごしていたのは、リズが、亡くなるまでの幸せを
期待した最後の夢だったのかもしれません。
ここからは、私のさらなる妄想ですが、
リズは、レオにも、記憶を移植していたのではないかと考えます。
死人の記憶を、移植できるかは、不明ですが、受賞講演会で何かに変換して、移植できる技術を確立したと言っていたので、研究は成功したし、実現できたのだと考えます。
リズの研究は、生きた人間の記憶を、クローンを作り、移植する技術だけでなく、
本当の目的は、死んだ人間の記憶も移植する技術を、研究していたのではないかと考えます。
とすると、レオは、新惑星で、徐々に記憶が戻ってきて、リズの思い出を懐かしむという、
結末になることになります。
ミロというAIは、よくできたAIと思います。
最後の最後に、鎮静剤だと嘘を言って、リズを安心させ、消去を実行するプログラミングは、
どうやったら学習できるのか?
また、酸素濃度1%を切った時、リズが、他のポッドの酸素を使うことに気がつくと、
極低温睡眠にさせるため、ポッドの酸素を持って来る処理に時間がかかり、リズが極低温睡眠して
いる間に処理を行い、蘇生時に酸素がある状態にできると、実行しないことを言って、
安心させる術をも学習していることになります。
もし、別のポッドからの酸素供給が可能ならば、
酸素濃度30%になる前に、リズに復旧プラン提案していてもおかしくないと思います。
(上位管理者権限が必要になるのかもしれません。
管理者権限を使って、安楽死プログラムを削除したが、オミクロン-267ポッドだけの管理者
権限のかもしれないと考えます。)
にもかかわらず、酸素濃度1%を切って、リズが思いついてからの同意は、不自然だと感じます。
ミロは、その可能性を、もっと前に復旧プランとして計算できていたと考えます。
ただ、酸素濃度が30%を切ったため、自動的にオミクロン-267のポッドは、破損ポッドとして、
消去命令が確定したのだと思います。
その後で、オミクロン-267の安楽死プログラムを削除したものの、すでに消去命令は確定して
いるため、最優先で自動的に実行されたと考えます。
或いは、
更に上位の管理システムの安楽死プログラムにより、確定された消去命令が実行された
ということなのではないか思います。
皮肉なことに、これが、回想シーンで何度も描かれたリズの研究室で、失敗したモルモットの
殺処分に重なるという、恐ろしいホラー映画となっていると思います。
”おやすみ リズ” ミロの最後の言葉が、恐ろしい!!
やっぱり、AIに命を預けるのは、考えてしまいます。躊躇なく、命令を実行してくる!!
ただ、
何度もモルモット実験してきた、研究者であるリズにとって、リズのクローンが1体だけだった
とは、考えにくいと思います。
きっと、損失のリスクを考え、複数体準備していたのではないかと推測します。
とすると、
エンディングのリズは、別のクローンだったのかもしれない。
同じく、レオも複数体いたのかもしれません。
こんなに奥の深い演出の映画は、近年見た映画での、”Best!”です。